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東京地方裁判所 昭和51年(行ウ)106号 判決 1978年9月26日

東京都大田区南馬込五丁目六番一〇号

原告

有限会社 山家や

右代表者代表取締役

木下榮

右訴訟代理人弁護士

向武男

鶴見祐策

東京都大田区中央七丁目四番一八号

被告

大森税務署長 白崎浅吉

右指定代理人

野崎悦宏

布村重成

大平靖二

飯久保英夫

佐々木正男

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた判決

一  請求の趣旨

1  被告が原告の昭和四六年三月一日から同四七年二月二九日までの事業年度分法人税について昭和五〇年一月三一日付でした更正処分及び過少申告加算税賦課決定を取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、昭和四七年五月一日、その昭和四六年三月一日から同四七年二月二九日までの事業年度(以下「本件事業年度」という。)分法人税について欠損金額を一九九万五七四一円として確定申告をしたところ、同五〇年一月三一日、被告から所得金額を二、四二一万五、九八二円税額を九一九万七、四〇〇円とする更正処分及び過少申告加算税額を四五万九、八〇〇円とする賦課決定(以下一括して「本件課税処分」という。)を受けたので、これに対し異議申立をしたが棄却され、さらに審査請求も棄却された。

2  しかしながら、本件課税処分は益金に算入すべきでないものを益金に算入した違法があるので取り消されるべきである。

二  請求原因に対する認否

請求原因1の事実は認めるが、同2の主張は争う。

三  被告の主張

本件課税処分において被告の認定した所得金額二、四二一万五、九八二円は、次に述べる理由により益金の額に算入すべき特別勘定の金額二、六二一万一、七二三円から原告の申告した欠損金額を控除したものである。

1  原告は、かって東京都港区新橋二丁目一六番地二三号所在の建物を賃借していたが、右建物が昭和四二年三月二日「東京都市計画新橋駅西口地区市街地改造事業」のため東京都に買い取られ、同年四月三日その補償金三、三〇三万六七一円(借家人補償金二、六二一万一、七二三円及び営業補償金、移転料等六八一万八、九四八円)を受領した。

2  原告は、右借家人補償金二、六二一万一、七二三円によって代替資産を取得する予定であるとし、租税特別措置法(昭和四二年法律第二四号による改正後のもの。以下これを単に「措置法」という。)六四条の二第一項の規定により、代替資産取得のための指定期間を昭和四六年九月四日(租税特別措置法施行令三九条の二第九項一号ロ(昭和四二年政令第二七二号による改正後のもの。)による。)までとして昭和四二年三月一日から同四三年二月二九日までの事業年度の確定決算において右金額を特別勘定(以下「本件特別勘定」という。)として経理し、その経理したところに基づいて同年度の確定申告をした。

3  原告は、昭和四六年三月一五日、前記「東京都市計画新橋駅西口地区市街地改造事業」に基づき代替資産として東京都港区新橋二丁目一六番地一号所在の通称ニュー新橋ビル一二二号室の建物区分所有権(譲受価額一、六一九万九、六一四円)及び土地共有持分(譲受価額三、四二九万四、四八六円)を取得した。そして、措置法六四条の二第二項及び三項によれば、同条一項により特別勘定を計上している法人が指定期間内に代替資産を取得した場合には、同法六四条一項に定めるところに従い、所定の圧縮限度額の範囲内でその帳簿価格を損金経理により減額するか、又はこれに代えて圧縮限度額以下の金額を損金経理の方法により引当金勘定に繰り入れる方法により経理し、かつ、同条四項所定の要件を具えた確定申告書を提出した場合に限り、右の減額し又は経理した金額に相当する金額をその代替資産を取得した事業年度の所得金額の計算上損金の額に算入することができ、その場合には、特別勘定として経理した金額のうち代替資産の取得価額の一定割合に相当する金額をその事業年度の所得金額の計算上益金の額に算入することとされている。

しかしながら、原告は、代替資産を取得したにもかかわらず、右に述べた法定の経理手続を一切せず、本件特別勘定の金額を指定期間である昭和四六年九月四日を経過した本件事業年度末においてもそのまま計上していた。

4  そこで、被告は、措置法(ただし、昭和四四年法律第一五号による改正後のもの。)六四条の二第四項二号の規定により本件特別勘定の金額を本件事業年度における益金の額に算入したものである。

四  被告の主張に対する認否

全部認める。

五  原告の反論

原告が被告の主張する所定の経理手続をしなかったのは、次のような事情によるものである。すなわち、当時の原告代表者木下龍雄は、昭和四五年から同四六年にかけて病気により医師の診療を受け、同四七年一月に入院し手術を受けてからは生死の間をさまようような状態が続き、同年五月退院後も病状は回復せず、入院と退院を繰り返していたが、同五〇年四月胃癌により死亡したものであり、とうてい原告の経営や税務処理に従事できる状態ではなかった。また、右木下龍雄はいわゆるワンマン経営者であって、経営について他人に相談したり助力を求めたりすることはせず、前記入院時においても帳簿等の重要書類を鞄に入れて枕元に置いておき、これを他人に見せたり渡したりすることもなく、家人から原告の経営等について指示を求められても、「そのうち全快したら自分で処理するから心配ない。」と答えるだけであったので、家人も原告の従業員も原告の税務処理に関与することはできなかった。

以上のとおりの事情であるから、原告が前記経理手続をしなかったことについては、措置法(ただし、昭和四三年法律第二三号による改正後のもの。)六四条の二第五項で準用されている同法六四条五項にいう「やむを得ない事情」があったというべきであり、したがって本件は同条一項の課税の特例の適用を受けることができる場合である。

六  原告の反論に対する被告の認否及び反論

1  原告の反論として主張する事実は不知。右事実により「やむを得ない事情」があったとの点は争う。

2  原告は、右の「やむを得ない事情」があったことをもって本件課税処分は違法であると主張するが、措置法(ただし、昭和四四年法律第一五号による改正後のもの。)六四条の二第四項二号によれば、指定期間を経過する日において特別勘定残額を有している場合には、その金額を右指定期間を経過する日を含む事業年度の所得金額の計算上益金の額に算入することとされているのであるから、原告の主張はそれ自体失当であるのみならず、原告の引用する前記措置法六四条五項の規定は、確定申告書に所要事項を記載せず又は必要書類を添附しなかったことにつきやむを得ない事情があると認められる場合の宥恕規定であって、原告のように措置法六四条一項の定める経理そのものが一切されていない場合までも宥恕するものではない。

第三証拠

一  原告

1  甲第一号証

2  原告代表者

3  乙号各証の成立はすべて認める(同第二、第三号証、第七号証については原本の存在並びに成立も認める。)。

二  被告

1  乙第一号証の一ないし一二、第二ないし第七号証

2  甲第一号証の成立は認める(その原本の存在並びに成立も認める。

理由

一  請求原因1及び被告の主張1ないし4の各事実は当事者間に争いがない。

二  右事実関係によれば、原告は、措置法六四条の二第一項の規定によって本件特別勘定を設け、本件事業年度中の指定期間内に代替資産を取得したにもかかわらず、右取得につき課税の特例の適用を受けるのに必要な同法六四条一項所定の経理を全くせず、指定期間を経過した日において右特別勘定の金額をそのまま計上していたものであるから、同法(ただし、昭和四四年法律第一五号による改正後のもの。)六四条の二第四項二号によって右特別勘定の金額二、六二一万一、七二三円を原告の本件事業年度の所得の金額の計算上益金の額に算入すべきものであることは明らかである。

三  原告は、本件において措置法(ただし、昭和四三年法律第二三号による改正後のもの。)六四条五項にいう「やむを得ない事情」があったから同条一項の規定を適用すべきであると主張するが、同条五項の規定は、その文言から明らかなとおり、当該法人が同条一項の定める経理をし、ただ、やむを得ない事情により確定申告書に同条四項の定める事項の記載又は書類の添附を欠いた場合についての宥恕規定であって、本件のように同条一項の定める経理そのものがされていない場合までを対象としたものではない。したがって、本件に同条五項の適用があることを前提として本件課税処分の違法をいう原告の主張は、その前提を欠き失当である。

四  以上の次第であるから、本件課税処分は適法である。

よって、原告の本訴請求は理由がないのでこれを棄却し、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法七条、民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 佐藤繁 裁判官 中根勝士 裁判官 菊池洋一)

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